jokogumo note

[もののはなし]

旅立った山の人

旅立った山の人

jokogumoでは来年、かごやざるなどの編み組みをその土地の暮らしとともに紹介する企画展を予定しています。これまでほぼ毎年開催している「かご展」ではいろいろな素材のいろいろな道具をご紹介してきましたが、次はさらに一歩踏み込んだ、もうちょっと泥臭い(ことを私はかっこいいと思っているけど)内容にしたいと思っています。どうして東北にはこんなにもよい手仕事が残っているのか。その土地の暮らし、人と自然の営みを垣間見ることでその「どうして」が少し紐解けるように思うのです。それを、ひとりでも多くの方と分かち合いたい。

先日、奥会津は三島町の方と企画についての打ち合わせをしました。顔見知りのつくり手や使われる素材についての話をしていたとき、私も尊敬する「山の人」がほんの2週間ほど前に亡くなったことを知りました。この「山の人」はjokogumoが実店舗を構える前からお付き合いのあるつくり手さんで、山の素材がぎっしりと詰まった小屋に何度もおじゃましたことがあります。薪ストーブで燻された独特の匂いと、材料や作りかけのバッグの隙間を行き来する猫。小屋の前にはもぐらが死んでいたこともあったっけ。

御年95歳。亡くなる二日前に、鉈を手に家の前で作業している姿を見たというのだから最期まで本当にかっこいい人です。出会った頃、すでに80代だったつくり手さんたちは当たり前だけど10年が経って90代に。人はいつまでもは生きられないから、ここ数年は私の中にも大きな危機感、焦る気持ちがあります。この人たちの暮らしを、知恵を、伝えたい。もちろん、60代、70代の作り手もいるのですが、その上の戦前の暮らしを知っている世代の凄みというのはそのあとの世代にはないものです。戦前までの暮らしというのはずいぶんと昔までさかのぼれるものであるし(おそらくずっと変わらなかった)、その最期の伝達者であると思う。

今の時代の今の暮らしに具体的に役立てることは多くはないかもしれない。それでも、学ぶことはたくさんあると思うのです。私達のルーツはどういったところにあるのか。人が生きるってどういうことなのか。「あんたが見たことをな(しっかり伝えなさい)」と山の人に言われたと思って、jokogumoの10年をぎゅっと詰め込んでがんばろうと誓った日。

2009年に書いたblog、よかったら読んでみてください。
山の人が作る道具
(このとき撮った写真の元データ、探しているのだけど見つからずちょっと不安。出てきますように。)

ちなみに最初の写真はjokogumoでお金のトレー代わりに使っている胡桃のザル。これはこの五十嵐さんの作。実店舗が出来たときからずっと使っています。当時ウェブショップにて似たものをいくつも販売したので、お手元にお持ちの方もいらっしゃると思います。山の人の手から生まれた道具が人の生死に関わらず、みなさんの元で生き続けることは嬉しく、どこかどっしりとした気持ちになれます。